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長崎県の西端、五島列島。大小140余りの島々からなるこの地域は、豊かな自然と温かい人々、そして独自の文化が今も息づく場所です。そんな五島に暮らす人々が日常的に使っている「五島ことば(方言)」には、聞いているだけでほっと和む魅力があります。

その中でもとりわけ興味深いのが、友達を意味する「ちんぐ」という言葉。なんと、これは韓国語の친구(チング)と同じ発音です。いったいなぜ、外国の言葉と五島の方言がつながっているのでしょうか? 今回は、五島ことばの魅力と「ちんぐ」の秘密、そして五島と韓国の歴史的なつながりについて探ってみましょう。


五島ことばの特徴とやさしさ

五島の方言は、長崎弁をベースにしながらも、独特の語彙や言い回しが多数存在します。音の響きは柔らかく、抑揚のあるイントネーションが特徴的で、聞いているとどこか懐かしい気持ちになります。

例えば、

  • 「はよしんしゃい」(早くしなさい)

  • 「ほんなこっちゃ」(そうなんだよ)

  • 「いっちょん分からん」(まったく分からない)

などの表現があり、地元の人と会話を交わすと、その言葉の温もりに心がほどけるような気がするはずです。


「ちんぐ」=友達? 言葉の不思議な一致

そんな五島ことばの中でもとりわけ注目されているのが、「ちんぐ」という言葉です。五島では、親しい友人のことを「ちんぐ」と呼びます。

たとえば、

  • 「あいつ、昔からのちんぐやけん、大事にしとるとよ」 (あいつは昔からの友達だから、大切にしているんだ)

という具合です。

ここで驚くのが、この「ちんぐ」が韓国語の친구(チング)と発音も意味もまったく同じであること。これは単なる偶然でしょうか?


五島と朝鮮半島の交流史

五島列島は、古代から海上交通の要衝でした。中国や朝鮮半島と九州本土を結ぶルート上にあり、遣唐使船も五島列島を経由して唐へ向かっていたとされます。

特に、現在の韓国にあたる朝鮮半島とは、少なくとも平安時代以降、交易や遭難、漂着などを通じて断続的な人の往来があったようです。また、戦国時代から江戸時代にかけては、朝鮮通信使が九州を通過する際、五島近海を航行していた記録もあり、こうした歴史的背景の中で、朝鮮語の語彙が少しずつ五島の方言に取り込まれていった可能性は十分に考えらます。


「ちんぐ」以外にも? 外国語との交じり合い

実は、五島の言葉には他にも外国語との共通点や影響が見られることがあります。例えば、五島では「ありがとう」の意味で「おおきに」と言うことがありますが、これはもともと関西圏の表現です。しかし、五島には関西からの移住者や船員も多く、船の往来を通じて言葉が伝播したとも言われます。

また、江戸時代に五島を訪れたオランダやポルトガルの商人たちの影響を受け、五島の文化や信仰、料理の中にも異国の要素が取り込まれています。言葉もまた、そうした文化交流の一部として自然と溶け込んでいったのでしょう。


方言がつなぐ、人と人の距離

「ちんぐ」という言葉に触れるとき、そこには単なる語彙の面白さを超えた、人と人との温かいつながりが感じられます。五島の人たちは、親しい友達を「ちんぐ」と呼び、大切にします。その言葉には、家族のような親しみと、信頼の気持ちが込められているのです。

旅先で地元の人と「ちんぐになりたい」と思ったなら、ぜひ思い切って使ってみてください。 「五島の人とちんぐになりたかとです」 そんな風に声をかければ、きっと笑顔で返してくれるはずです。


五島の旅でことばを味わう

五島を訪れる際は、観光地や美しい自然を楽しむだけでなく、ぜひ「五島ことば」に耳を傾けてみてください。居酒屋や市場、民宿のおかみさんとの会話の中に、温かい言葉の宝庫が広がっています。

最後に、別れ際に地元の人がこんな風に言ってくれたら、それはもうあなたが「ちんぐ」になれた証かもしれません。

「また来んしゃいね、ちんぐやけん待っとるけん!」

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