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長崎県西方の五島列島は、日本でも屈指の美しい海を誇る地域です。その海から水揚げされる魚介類は「とにかく旨い」と評判で、グルメ通の間でも五島の海産物は一目置かれる存在です。刺身で、干物で、焼き物で――どんな料理にしても素材の良さが際立ち、訪れる人の舌と心を魅了します。

では、なぜ五島列島の海産物はこんなにも美味しいのでしょうか? そこには、地理的・自然的な条件が密接に関係しています。今回は、海流や地形、漁法などの観点から、五島の海産物の魅力を深掘りしていきます。


対馬海流がもたらす栄養豊富な海

まず注目したいのが、五島列島の海を流れる「対馬海流」の存在です。これは日本海へ流れ込む暖流で、南の東シナ海から流れ込む黒潮の分流にあたります。

この対馬海流は、温かくてプランクトンが豊富に含まれており、魚たちにとって格好の「ごちそうの流れ」。この栄養豊富な海流が五島列島のまわりを絶えず流れていることで、様々な種類の魚が集まり、良質な漁場が形成されているのです。

特に春から秋にかけては、沿岸性の魚と回遊魚の両方が集まりやすく、マグロ、カツオ、サバ、アジ、ブリといった人気魚種が豊富に水揚げされます。


複雑な海底地形が生む“魚の隠れ家”

五島列島のもう一つの特長は、海底地形が非常に複雑で変化に富んでいることです。浅瀬と急深、岩礁と砂地が入り混じった多様な地形は、魚にとって格好のすみかであり、繁殖・成長に最適な環境となっています。

たとえば、岩礁の間にはウニやアワビが棲み、砂地にはクルマエビやアカモク、そして潮の流れが速い場所には身が引き締まった真鯛やイサキが泳いでいます。複雑な地形は、漁師にとっては操業が難しい反面、漁場の多様性を高め、年間を通じてさまざまな魚種を獲ることを可能にしています。


潮の干満差が育む「旨味」

五島列島周辺の海域は、潮の干満差が大きいという特徴もあります。干満差が大きいことで、海水が頻繁にかき混ぜられ、酸素や栄養が海中に広く行き渡ります。これにより、海藻やプランクトンなどの一次生産者が豊かに育ち、それを食べる魚介類の食性も安定し、結果として身の締まりや脂ののりに影響を与えます。

また、干潮時には岩礁が露出することで、アワビやサザエといった磯の恵みも採取しやすくなり、地域住民による持続可能な磯漁の文化も発展してきました。


「一本釣り」や「定置網」など多様な漁法

五島では、昔ながらの漁法が今なお多く残っています。中でも有名なのが「一本釣り」です。一本釣りは、魚を一匹ずつ丁寧に釣り上げるため、魚にストレスを与えず、身の締まりや鮮度が保たれやすいという利点があります。

また、一定の漁獲量を維持しつつ海への負荷を減らす「定置網」も広く活用されており、魚群の自然な回遊に合わせて持続的に漁を行うスタイルが確立されています。これらの漁法は、自然との共生を意識した五島ならではの知恵と言えるでしょう。


島の人々のまなざしが支える品質

五島の漁業を支えているのは、豊かな自然環境だけではありません。島に暮らす人々の「目利き」と「手仕事」も、その味を支える重要な要素です。

水揚げされた魚は、地元漁協や市場で迅速に選別・加工され、冷蔵・冷凍の管理体制のもと新鮮なまま出荷されます。また、近年では干物や燻製などの加工品も注目されており、伝統技術と現代の衛生管理が融合した高品質な海産物が全国へと届けられています。


食卓に届くまでの「物語」

五島の魚を食べるということは、ただ美味しいものを食べるというだけでなく、その背後にある自然、歴史、人の営みとつながることでもあります。

一本釣りの漁師が夜明け前に船を出し、家族が支える加工場で一枚一枚干物が作られ、そして離島から本土へと丁寧に届けられる――。その一連の流れのすべてに、五島の風と海のリズムが染み込んでいるのです。


五島の海を味わうという贅沢

マグロの刺身、カマスの一夜干し、ウニの塩漬け、イカの一夜干し、そしてアジのなめろう――五島の海産物は、味の奥行きと豊かさが他とは一線を画しています。その美味しさの背景には、海流、地形、漁法、人々の技と心があります。

五島列島を訪れる際には、ぜひその海の恵みを味わってください。そして、その一口に込められた自然と文化の重なりを、ぜひ感じ取ってください。

五島の海産物は、まさに「海がくれた贈り物」なのです。

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